膝関節班

膝関節班は、斎藤充教授(平成4年卒)を中心に、附属病院(本院)を拠点として分院(葛飾医療センター、第三病院、柏病院)および国立病院機構宇都宮病院、国立病院機構西埼玉中央病院、東急病院、東京都保健医療公社豊島病院などを筆頭に、各関連病院において講座の治療方針に基づいた治療や研究を行っています。

本院の臨床部門に関しては、斎藤充教授以下、大森俊行、宮坂輝幸、林大輝、窪田大輔、嘉山智大、閨谷太希、黒坂大三郎(非常勤)の8名のグループで診療にあたっています。

小児から成人、高齢者まで膝関節の疾患,外傷の診療を幅広く行っています。 膝関節専門外来の紹介例は年々増加し、膝関節に関する手術件数は、手術枠が限られたなか年間300例におよびます。

手術症例数をことさら強調する施設も少なくないなか、私どもは「質」を重視し、大学病院ならではのレベルの高い安全な医療の提供をつねに心掛け、手術成績の向上と均一化を目指しています。

特に80歳以上の内科的合併症(糖尿病、透析、心筋梗塞後、脳梗塞後など)を有する患者さんであっても、歩行する気持ちが強ければ、関連各科と連携をとり積極的に手術をおこなっています。

人工膝関節置換術は、年間208例を数えます。特に両側同時に人工膝関節置換術を行う手術は、年間70例施行しており、日本の大学病院の中で有数の症例数をほこっています。これらの患者さんも多くの内科合併症で手術を諦めていた方も含みます。この症例数は都内の大学病院の中では有数の症例数を誇ります。

また、前十字靱帯再建術(前十字靱帯再建と半月板縫合術を含む)は、トップアスリートを含む年間55件を数えます。

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参考論文
斎藤充ほか。両側同日人工膝関節.[パーフェクト人工関節膝置換術(金芳堂、石橋編)、2016]
http://www.kinpodo-pub.co.jp/shosai/f0724-1681-1.html
斎藤充ほか。1チームによる両側同時人工膝関節術の実際,[Bone Joint Nerve, 2015]
http://arcmedium.co.jp/img/BJN5-1%20mokuji.pdf
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また、当科の膝関節手術の特徴は、ただ単に手術をするだけではなく、国際的にも世界をリードする骨疾患の基礎的、臨床的成果をもとに、骨および軟骨に対する最先端の検査、薬物治療を併用し、術後の長期成績の向上に努めています。(当科の骨代謝班ホームページもご参照下さい)
なお、「人工関節置換術の患者さん」には、 骨密度、骨代謝マーカー、骨質マーカー(ペントシジン、ホモシステイン)などを測定し、総合的に骨粗鬆症や、骨の錆び(老化)を評価しています。この結果をもとに、人工関節術後の経過を良くするための最先端の骨粗鬆症治療を行っています。
(平成28年5月17日、「たけしの みんなの家庭の医学」に出演紹介)

★人工関節の「耐用年数」の誤解について★

人工膝関節の耐用年数が20−30年といわれることがありますが、 それは正確な情報ではありません。

正確には、人工関節の手術後20年から30年で骨粗鬆症などにより骨が痩せて、人工関節と骨との結合が緩くなり痛みがでることがあります。その頻度は、100人中3−6人くらいです(3〜6%)。こうした緩みを防止するため、上記した最先端の骨の評価による骨粗鬆症治療も同時に行います。こうした治療により、緩みによる再置換の頻度は、さらに半分になることが分かっています。また、もし緩んだ場合でも、人工膝関節を再度入れかえる手術(再置換術)を行うことで、痛み無く歩行することが可能になります。

当科では、両側同時に人工関節置換術をされたかたも、片側の人工関節をされたかたも 十分な疼痛予防対策をとることにより、早期歩行が可能となっています。

手術後1日目:車椅子に自分の足で乗車、可動域訓練開始
手術後2日目:歩行訓練開始

また、当科では、いたずらに退院を早めるのではなく、ご自宅での生活に自信がもてるまで しっかりとリハビリテーションをしていただきます。このため通院リハビリテーションは不要です。

これにより、退院後にご家族にご負担をかけること無く生活を送れるようになります。

入院期間は、
片側の人工関節で、2週半週〜3週程度、
両側同時の人工関節で2週半から4週程度です

この期間で、ご自宅の生活に自信がもてるようになります。
もちろん、より早期に退院希望があれば、退院が可能です。
患者さんの個々の生活パターン、ご家族の状況により患者さんに決めて頂いています。

本院の基礎研究部門は、斎藤充教授(平成4年卒)主導のもと、これまで講座で培われてきたコラーゲン分析の手法を駆使した生化学的研究に加えて、再生医療技術による関節軟骨再生や組織工学的手法を用いた再建靱帯の再生に関する研究など多彩な研究を精力的に行って臨床に還元しています。このような最先端の研究をもとに変形性膝関節症と骨粗鬆症を同時に評価、治療する「個々の患者さんにあわせたオーダーメード治療」を行っています。

専門的に取り扱っている主な疾患

  • 変形性膝関節症(OA)
  • 関節リウマチ(RA)
  • 特発性骨壊死
  • 離断性骨軟骨炎
  • 膝関節周辺骨折・脱臼
  • 反復性膝蓋骨脱臼、膝蓋骨亜脱臼症候群
  • 半月板損傷や前十字靱帯断裂などのスポーツ外傷
  • ジャンパー膝やランナー膝などのスポーツ障害

主な手術方法

変形性膝関節症に対しては、コンピューター支援システム(Computer Assisted Surgery以下CAS)を活用した人工膝関節全置換術(TKA)を多数行っています。術前にCTを撮影し、コンピューター上に構築された3次元画像をもとに手術シュミレーションを行い、術中にそのデータを用いることで、正確な骨切りと、至適位置へのインプラント設置が行えます。

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Patient-specific templating法で用いるカスタムメイドのガイドによる患者さんの膝の形にあったオーダーメイドの手術計画をたています。(Patient-specific Instruments : PSI)
最近では、本邦では初となる、CTまたはMRIの画像情報から個々の患者さんの骨の形態に合わせて解剖学的模型を作製する技術とCASとを融合させたPatient-specific templatingという新しい技術を用いた手術方法にも取り組んでいます。
本院での取り組みは以下の読売新聞でも取り上げられています。

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人工膝関節全置換術(両側同時に人工膝関節置換術を施行した患者さん)

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骨欠損の多い例に対する人工膝関節全置換術

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また、症例に応じて、人工膝関節単顆置換術 (UKA)、高位脛骨骨切り術(HTO)、可及的に人工関節置換術を回避し、最小の侵襲で痛みをとるための、関節鏡視下デブリドマン手術も行っています。

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膝前十字靱帯損傷に対する靱帯再建術

スポーツ外傷の症例も多く、レクリエーションレベルから競技スポーツレベルに至るまで幅広い層の患者さんが訪れています。当院、スポーツ・ウェルネスクリニックともチームを組んで、レクリエーションレベルからトップアスリートの靱帯再建、半月板縫合術などを行っています。
とくに前十字靱帯損傷に対する靱帯再建術例が多く、骨付き膝蓋腱あるいは半腱様筋腱を用いる方法を症例によって使い分けて、良好な成績をあげています。

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当膝班では、世界で初めて、再建した靱帯の成熟過程を明らかにし、それらのデータをもとに、スポーツ復帰への理学療法を実施しています。
豊富な基礎研究データに基づき、術後療法をいたずらに早めることなく、スポーツ・ウェルネスクリニックやリハビリテーション科と連携しながら、安全性に重点を置いたリハビリテーションプログラムを実践しています。
また、離断性骨軟骨炎をはじめとする骨軟骨病変に対しては関節鏡視下に骨軟骨移植術を行っています。

自家培養軟骨細胞移植術  ~当科では、自家培養軟骨による治療を行っております~

軟骨は、膝などの関節内の骨と骨の間にあり、関節がスムーズに動くためのクッションの役割を果たしています。一度痛めると自然に治ることが難しい軟骨組織ですが、軟骨細胞には増殖する能力があります。そこで、患者さんご自身の軟骨組織の一部を取り出し、軟骨細胞が増殖できるような環境で増殖させたのちにコラーゲンの中で培養することによって作られたのが自家培養軟骨です。「自家」とは、ご自身の細胞から作り上げたという意味です。スポーツや怪我による軟骨の欠損(外傷性軟骨欠損)や離断性骨軟骨炎によって膝関節の軟骨が大きく欠けたところに、自家培養軟骨を移植することによって治療します。この治療は厚生労働省より平成24年7月に日本で初めて承認された治療法で平成25年4月から保険適用になりました( この治療法は変形性関節症の治療法ではありません。)

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詳細は、膝関節専門外来担当医師(木曜日午前・午後)、もしくはスポーツ・ウェルネスクリニックの林大輝医師の外来で説明をお受けください。

最近の主な研究活動

臨床的研究

人工膝関節置換術(TKA)において、精度の高いCASを用い、手術成績の向上と均一化をめざしています。また、CASを用いた様々な解析を行っています。

本邦初の先進技術であるPatient-specific templating 法としてPatient-specific Instruments (PSI) を用いた TKAを行い、インプラント設置の正確性について検討しています。CASを用いたTKAは、インプラントの正確な設置ができる一方で、器械が高価である、手術時間が延長する、トラッカー設置による侵襲や障害の発生などの問題点が指摘されてきました。PSI はこれらの点を解決し、きわめて高い精度でインプラントを設置できることを明らかにしました。現在は従来法による手術との比較検討や、三次元的アライメントの再現性、術前計画ソフトの利便性、ガイドの形状・適合性等に関して各PSI間の比較検討を行っています。

変形性膝関節症についての検討では、半月板の断裂や機能不全が疼痛の原因と考えられる症例に対して、変形が中等度にとどまっていれば関節鏡視下手術はすぐれた除痛効果を示すことを明らかにしました。

前十字靱帯再建術の腱組織のいわゆる"靱帯化"を組織学的ならびに生化学的に評価した結果、術後早期のスポーツ復帰の危険性を指摘し、慎重なリハビリテーションプログラムを施行しています。

膝関節内骨折である脛骨近位端骨折の長期治療成績の検討から、二次性変形性膝関節症を きたす骨折型の治療指針を確立し、良好な結果を得ています。

慈大式ヒンジ型人工膝関節および1999年以降、使用している改良型ローテーティングヒンジタ イプのヒンジニーJ人工膝関節の長期成績について検討を行っています。

基礎的研究

これまで講座で培われてきたコラーゲン分析の手法を駆使した生化学的研究に加えて、再生医療技術による関節軟骨再生や組織工学的手法を用いた再建靱帯の再生に関する研究などを行っています。

診療スタッフ

  • 斎藤 充

    整形外科学講座 教授

    斎藤 充

    教授からのごあいさつ
  • 大森 俊行

    助教

    大森 俊行

  • 宮坂 輝幸

    講師

    宮坂 輝幸

  • 林 大輝

    講師

    林 大輝

  • 嘉山 智大

    講師

    嘉山 智大

  • 窪田 大輔

    助教

    窪田 大輔

  • 閨谷 太希

    助教

    閨谷 太希

附属病院(本院)専門外来

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なお、再診に関しましては予約制となっております。

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