股関節班

取り扱い疾患・障害について

小児から成人、高齢者まで、股関節周辺の疾患・障害の診療を幅広く行っています。小児疾患では先天性股関節脱臼、ペルテス病、大腿骨頭すべり症など、また、成人疾患では変形性股関節症、大腿骨頭壊死、リウマチ性股関節障害などが中心となります。最近では、高齢者の骨粗鬆と関連した脆弱性骨折や急速破壊型股関節症、スポーツなど活動的な人に多く見られる大腿骨寛骨臼インピンジメント(Femoro-Acetabular Impingement; FAI)、関節唇損傷なども増加しつつあります。

  1. 人工股関節治療について
  2. 股関節鏡視下手術について
  3. 変形性股関節症に対する関節温存手術
  4. 大腿骨頭壊死症に対する骨切り術
  5. 小児股関節疾患の治療について

当科における診療の特徴と手術術式について

小児と成人の股関節疾患、障害の代表的なものについて、当科で行っている治療の概略を、最近行った症例のX線写真とともにお示しします。

1. 人工股関節治療について

当科ではなるべく侵襲の少ない治療を行うこと、若年では人工関節を回避することに努めていますが、実際には人工関節治療が適応となる患者さんは大変多く、今日の股関節疾患治療の主役を演じる術式であることは事実です。その理由は、今日の人工股関節におけるインプラントテクノロジーと手術技術、術後管理システムが大きく進歩しており、手術の安全性、確実性の点でとても信頼できる治療法となっているからです。  

人工股関節置換術の方法は、骨とインプラントをどのように固定するかによって大きく2つの方式に分けることができ、ひとつは骨セメントという固定材料を用いる方法(セメント人工股関節)、もうひとつは骨セメントを用いずに骨とインプラントの直接結合をめざす方法(セメントレス人工股関節)です。世界の動向としては、人工関節技術が発展を始めた当初の1970年代から1980年代にかけてはセメント方式が主流でしたが、1990年代から2000年代へとセメントレス方式が大きく見直されて主流となり、今日では本邦で行われている人工股関節の75%以上がセメントレス方式で行われています。

人工股関節置換術

慈恵医大整形外科学講座は、セメントレス人工股関節の研究と臨床経験において本邦で最も古い歴史を持つ施設のひとつであり、1970年から一貫して日本人の変形性股関節症に適したセメントレスインプラントの研究と臨床応用を進めてきました。日本人が初回手術として受ける人工股関節置換術には大きな特徴があり、それは、原因疾患のほとんどが小児期の先天性股関節脱臼や生来の臼蓋形成不全を基盤とした二次性変形性股関節症であるという点です。臨床的には、骨の変形程度が強い、軟部組織の拘縮が強い、その結果として姿勢異常や跛行が著しいといった特徴があります。このような問題点を踏まえ、当科における人工股関節治療の特徴としては、

  1. 個々の骨、関節の形態に応じて、いくつかの再建法やインプラントの中から、最も適していると考えられるものを選択して治療を行う(下図)
  2. 強い拘縮に対しては術中に軟部組織解離処置による調整を十分に行う
  3. 術後のリハビリには独自に開発した運動療法を取り入れて姿勢と跛行の改善に努める、といった治療プログラムを組んでいます。

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より低侵襲で合併症の少ないと言われる仰臥位前側方進入法への取り組み

股関節への進入法として大きく分けて前方法と後方法があります。当科では、従来より後方進入法を基本として行い良好な成績を得てきましたが、2014年から本格的に、より低侵襲で合併症の少ないといわれる仰臥位前側方進入法(ALS)に取り組んでいます仰臥位前側方進入法は、筋間からアプローチし、筋肉を切らずに手術を行う方法です。そのため脱臼のリスクが軽減できるより術後の日常生活動作の懸念事項が減る(不可能な動作が非常に少なくなる)メリットがあります。仰臥位前側方進入法では両側同時手術を行いやすいメリットもあり年間に20から30症例に施行しています。
後方進入法は、従来行ってきた方法であり、術後早期は脱臼予防などの最低限の生活指導が必要になるものの、高度変形を有する関節や、体の大きさ・骨の形態などによっては非常に有利な方法です。
症例によって進入方法を使い分けることによって、より安全で確実な合併症の少ない手術を目指しています。より低侵襲で回復の早い手術を目指しています。
いずれの方法でも、術後の入院期間は約2週間です。

当科の人工股関節置換術の手術件数は、初回手術と再置換手術(入れ換え)を合計して、2011年148件、2012年135件、2013年163件、2014年168件、2015年174件、2016年181件、2017年207件、2018年228件です。再置換術は難易度の高い手術でありますが、近医より当院へ再置換術の目的で御紹介いただくケースも多く、積極的に取り組んでいます。

人工股関節置換術の症例数と合併症については、次の表のようになります。感染3例は早期の洗浄により治癒、脱臼3例は手術治療して再発なし、神経障害の7例中6例は全回復、1例は部分回復でありました。

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人工股関節再置換術(入れ換え手術)

既存の人工股関節を新しいインプラントに入れ換える再置換手術では、長年の使用によりインプラントの緩みや移動が起こり、また、ポリエチレンの摩耗に由来する骨溶解も生じる結果、インプラント周囲にはしばしば高度な骨欠損を伴っています。ここに新しいインプラントをしっかりと再建するためには、まず、この骨欠損に十分な骨移植を行うことで骨盤、大腿骨を量的、質的に改善しておくことが必要です。骨移植としては自分自身の別の部位の骨を採取してくる自家骨移植と、冷凍保存された他人の骨を利用する同種骨移植がありますが、多くの場合は多量の移植骨を必要とするため、同種骨を利用します。同種骨移植では、内蔵の臓器移植や輸血のように免疫応答による拒絶反応を示すことは基本的になく、したがって、血液型や免疫タイプを適合させる必要はありません。通常、母床の骨と良好になじみ、少しずつ自分の骨へと置き換わって行きます。

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2. 股関節鏡視下手術について

今日、外科的治療全般において、診断や治療をできる限り低侵襲に行おうとする努力がなされています。整形外科領域における低侵襲手技の代表である関節鏡技術は、膝関節や肩関節において積極的に行われているものの、股関節領域における普及は遅れており、股関節内には自由に操作可能な空間が少ないこと、また、関節が皮膚から非常に深部にあることなどがその主な理由です。当科では、10年以上前から股関節鏡技術を導入し、積極的にFAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)、股関節唇損傷、滑膜生骨軟骨腫症、化膿性股関節炎その他の診断と治療に応用してきました。

股関節唇損傷・大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)

股関節唇損傷に対する考え方も、ここ数年で大きく変化しつつあります。以前は、臼蓋形成不全を伴わない股関節唇損傷の発生メカニズムは明らかではなく、治療としては断裂した関節唇を関節鏡下に切除することにとどまっていました。しかし、近年、多くの関節唇障害が大腿骨頭~頚部と臼蓋辺縁との衝突(インピンジメント)によって発生することが明らかとなりました。
FAIには、大腿骨頭から頚部への移行部が隆起しているCam-typeと臼蓋の被覆が過剰なPincer-typeがあり、骨同士がぶつかり合うことで関節唇や軟骨の損傷を引き起こすのです。関節唇の処置を行うにとどまらず、原因となる骨同士の衝突自体を回避する治療を行います。下に示す症例は、大腿骨頭から頚部への移行部が盛り上がっているという形態異常のために関節唇損傷となったCam-typeと呼ばれるFAIです。この方の場合は右の大腿骨頭から頚部の骨隆起を鏡視下に削り整えるという治療を行いました。

当科では、基本的に股関節鏡を用いて低侵襲に股関節唇縫合術や部分切除術さらには、大腿骨頚部の骨軟骨形成術を行っており、早期に仕事やスポーツに復帰できるよう治療を行っています。傷口は1cm程度のものが2から3箇所程度であります。2009年頃より本格的に股関節鏡視下手術に取り組んでおり、年間に30例程度の症例数を認定股関節鏡技術認定医(藤井)により行なっています

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3. 変形性股関節症に対する関節温存手術

85年を超える慈恵医大整形外科学講座の長い歴史において、股関節の診療・研究は常にその中心的役割を果たしてきましたが、その中でも特徴的であることは、変形性股関節症の患者さんを数多く診療してきたという点です。変形性股関節症に対しては、通常、いくつかの手術法を使い分けながら治療を行いますが、当科ではできる限り多くの術式に精通しそれらの中から個々の病状や年齢に応じて最も適切で侵襲の少ない術式を選択していくよう心がけています。

骨盤側術式

1) SPO(Spherical periacetabular Osteotomy)

骨盤を、臼蓋の形に沿って球形にくり抜くように骨切りし、骨頭の被覆が不足している部分をカバーするように回転移動させて新しい臼蓋を作り上げる術式です。まだ関節軟骨が十分に残っている初期の変形性股関節症が対象となり、とくに骨頭の形が球形に近い場合が良い適応となります。2018年より、寛骨臼形成不全に対する低侵襲骨盤骨きり術であるSPOに取り組んでいます。この方法であれば、従来法と違い、約7cmの皮膚切開で殿部の筋肉を剥がすことなく手術が行えます。回復の早い手術方法です

2) 寛骨臼回転骨切り術(RAO)

従来行ってきた方法です。当科ではOllier変法という、股関節外側のU字型皮膚切開と大転子切離法で進入し術野全体を立体的に把握しやすい展開法を用いています。彎曲骨切りには、個々の体格に最適な骨切りができるよう4種類(通常2種類)の曲率半径のノミを用意し、必ずエックス線透視を用いて正確で安全な骨切りを行うことをルールとしています。臼蓋骨片の固定はX線に写らない吸収性ピン、大転子の再固定にはチタン性スクリューを用います。

*より低侵襲なSPO手術を、可能な限り検討しますが、高度な寛骨臼形成不全や、骨盤の形態・状況によっては、従来のRAO、その他骨切り手術も検討し、患者さんにとってベストの方法を考えて治療いたします。

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3) 臼蓋棚形成術

臼蓋被覆が不足して外側にはみ出している骨頭部分を上方から被ってあげるように、骨盤から採取した板状の骨片をあたかも棚を作るように臼蓋上部に打ち込み、新しい臼蓋を形成する術式です。初期の変形性股関節症で骨頭に変形がある場合などが良い適応となります。

股関節鏡視下手術と棚形成術、外反骨切り術の同時施行の取り組み

2016年から新たに関節鏡を用いて関節内の状態を確認しながら、棚形成術、外反骨切り術を併用する術式にも取り組み、より確実な治療効果をめざしています。

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大腿骨側術式

大腿骨側では「骨頭の向きを変化させる」ことを目的として大腿骨骨切り術を行います。つまり、頚部のやや下方で大腿骨をいったん2分し、角度を変化させた上で再固定して骨癒合を待ち、新しい大腿骨形態を作ることで股関節に力学的に有利な状態を作ります。骨頭~頚部を内側に倒すようにするのを内反骨切り術、上方へ起こすようにするものを外反骨切り術と呼びます。また、骨頭から頚部の捻れ状態を調整することもあり、前方への捻れを減らすように行うものを減捻骨切り術、減捻と内反を組み合わせるものを減捻内反骨切り術と呼びます。大腿骨の内固定には金属プレート、スクリュー、ピン、ワイヤーなどを状況によって使い分けます。

骨盤+大腿骨の複合術式

骨盤または大腿骨どちらか一方の術式のみでは効果が不十分と思われる場合は、しばしば両者を組み合わせた手術を行います。すなわち、上記の臼蓋側術式のうちのひとつと大腿骨骨切り術を同時に行うことにより、より良い形態的適合、より良い力学的環境を獲得しようとするものです

筋解離術

当科で1960年から伝統的に行ってきた方法です。現在の術式は、股関節前方の小さな皮切から2つの筋肉の解離と関節包靭帯解離、関節内処置を行い、最後に内転筋の皮下切腱を追加するものです。骨に手を加えないので非常に低侵襲な術式です。一般に、除痛効果に優れた手技として認められていますが、当科では多くの症例の検討から、適切な手術適応を選択することによってX線学的な関節修復効果も得ることができる方法として行っています。末期変形性股関節症で人工関節にはまだ若いという症例のうち、増殖性骨形成が旺盛で広い骨接触面が再構築されている、関節接触面の糜爛状骨破壊が強い、疼痛が強い、といった臨床的特徴を持つ場合に応用しています。

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4. 大腿骨頭壊死症に対する骨切り術

大腿骨頭壊死症は骨頭の血流が障害されて生じる疾患です。骨組織が壊死し力学的に弱くなったところに体重がかかるため、治療を行わなければ、押しつぶされて骨頭陥没を生じ、次第に二次性変形性股関節症となっていきます。  
当科では、大腿骨頭壊死症に対しては、年齢、壊死部の位置と大きさなどを考慮して治療方針を決定しています。比較的若年の方では、なるべくご本人の大腿骨頭を残す、骨切り術という治療法を検討します。一方、比較的高齢の方、若年でも壊死範囲が非常に広範な場合などは、人工股関節による治療を検討することになります。

大腿骨頭回転骨切り術

壊死部分が比較的大きい場合、骨頭の前方や後方に健常部が残っている場合は、大腿骨頭~頚部をその軸の周りに回転させるように移動する大腿骨頭回転骨切り術を行います。骨頭を前方へ回転する場合を前方回転骨切り術、後方へ回転する場合を後方回転骨切り術と呼び、状況に応じて、さらに骨頭を内側へ傾斜させるような移動(内反)を加味します。  
どのような骨切り術を行うかの詳細については、X線、MRI、CTなどの検査結果から検討し、細かい手術計画を立てていきます。

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5. 小児股関節疾患の治療について

小児股関節における代表的な疾患は、先天性股関節脱臼とその治療後の遺残障害、ペルテス病、大腿骨頭すべり症などです。
治療は、本院の股関節スタッフと、慈恵医大第三病院の股関節スタッフ<大谷卓也教授(日本小児整形外科学会理事長)、川口泰彦(小児股関節専門外来チーフ)>が連携して行います手術や入院に際しては、状況に応じて、当院もしくは慈恵医大第三病院のいずれかで行うことを検討します。外来は、基本的には土曜日の小児股関節外来で行います。

先天性股関節脱臼

先天性股関節脱臼は、生後3か月検診など早期に発見されたものの多くは外来での装具治療により治癒が期待できますが、発見が遅れたものや脱臼度が強いものでは入院での牽引療法、あるいは手術的な整復術が必要となります。脱臼に合併する臼蓋形成不全が高度の場合は、観血的整復術に加え同時に骨盤骨切り術を行う場合もあります。

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先天性股関節脱臼治療後の遺残障害

先天性股関節脱臼治療後の遺残障害としては、大腿骨頭の亜脱臼、変形、壊死、あるいは臼蓋形成不全などがさまざまな程度に混在しています。障害の状況に応じて骨盤骨切り術や大腿骨骨切り術を行いますが、その時期としては3歳から8歳あたりが対象となります。

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ペルテス病

ペルテス病は成長中の大腿骨頭に、血行障害による壊死を生じる原因不明の疾患です。原則的に外来での装具治療が第一選択となりますが、年齢、壊死部分の重症度、その他の因子を総合的に考慮して手術治療を選択する場合もあります。術式としては、大腿骨の内反骨切り術や骨盤骨切り術から選択されますが、いずれもその目的は、壊死により陥没して球形を失おうとしている大腿骨頭を、まるい臼蓋に深く収めることによって骨頭の球形を維持、あるいは取り戻そうとすることです。

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大腿骨頭すべり症

大腿骨頭すべり症は、成長のスピードが増す10~14歳頃に多く、骨頭先端の丸い骨端部が成長線を境として徐々に、あるいは急激に、ずれを生じる疾患です。徐々にずれが進行し、痛みや跛行があっても歩行が可能なものを安定型といい、これに対し、急激にずれが進行して骨端部がぐらぐらとなり、まったく歩行不能となるものを不安定型といいます。
安定型で、ずれの程度が軽いものに対しては、当科では、そのままの位置で1本のスクリュー固定を行っています。この時、スクリューの外側端を骨から長く突出させることにより、骨頭の発育障害を防止しようとするダイナミック法を採用しています。

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安定型で、ずれの程度が比較的大きいものに対しては、骨頭より下方で骨切り術を行い、ずれた骨端部を関節内の正しい位置へと呼び戻すような治療法をとっています。基本としているのは転子部での屈曲骨切り術であり、ずれの方向に応じて少々の内反や外反を加味しています。

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不安定型大腿骨頭すべり症

不安定型大腿骨頭すべり症は、骨端部が安定性を失って股関節内でふらふらしている状態です。このタイプのすべり症は非常に重症型とされ、骨頭壊死など合併症を生じる危険性が高く予後不良とされています。当科では、できる限り骨頭壊死のリスクを低減するとともに、治療後の機能成績を高めるという目的で、全身麻酔下に愛護的に骨端の徒手整復を行った上でスクリュー固定する治療方針をとっています。

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診療スタッフ

  • 藤井 英紀

    准教授

    藤井 英紀

  • 羽山 哲生

    講師

    羽山 哲生

  • 天神 彩乃

    助教

    天神 彩乃

  • 米本 圭吾

    助教

    米本 圭吾

  • 小児股関節専門外来
    スタッフ 講師

    (兼任)非常勤診療医長

    川口 泰彦

    第三病院

小児の股関節疾患に関しては、本院の股関節スタッフと、第三病院の股関節スタッフ(大谷卓也教授(日本小児整形外科学会理事長)、川口泰彦(小児股関節専門外来チーフ))が連携して治療を行っています

附属病院(本院)専門外来

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なお、再診に関しましては予約制となっております。

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